iDeCoは現在、加入者数が約182万人(2020年12月時点)となり、毎月約3万人のペースで加入者が増え続けています。このiDeCoを使って、中小企業が福利厚生を充実させることができる制度があります。それが「iDeCo+(イデコプラス・中小事業主掛金納付制度)」です。
中小企業の事業主にとって、人材の確保と定着率の向上は常に課題となっています。また老後資金に不安を感じている人が多いことを考えると、従業員の老後の所得確保に関する福利厚生を充実させることはこれらの課題の解決方法の1つになります。ただし、大企業のように、新たに企業年金を自社で導入することは、事務負担や管理・運営などハードルが高いことがあります。一方iDeCo+であれば、導入から運営などを考えても、敷居が低いといえるでしょう。
では、具体的にiDeCo+について、みていきましょう。
iDeCo+は、従業員が加入しているiDeCoの掛金に事業主が上乗せして掛金を拠出できる制度です。従業員は自分が拠出した加入者掛金と事業主が拠出した事業主掛金をあわせて管理・運用します。運営管理手数料などのコストは従業員が負担し、最終的な給付額は加入者の運用結果に基づきますが、老後をより豊かにすることが可能になります。
iDeCo+を導入できるのは、従業員(民間企業に勤務する第1号厚生年金被保険者)が300人以下の事業主です。事業所が2つ以上ある場合は、全ての事業所の厚生年金被保険者の総数が300人以下であることが必要です。また、確定拠出年金の企業型年金、確定給付企業年金、厚生年金基金のいずれも実施していないことが要件になります。さらに、労働組合又は従業員の過半数を代表する者の同意を得ることも必要になります。
iDeCo+の事業主拠出の対象となるのは、基本的にiDeCoに加入している全ての従業員のうち、事業主掛金を拠出することに同意した加入者となります。iDeCoに加入していない従業員に掛金を拠出したり、iDeCoに加入したくない従業員に加入を強制することはできません。さらに、拠出対象者については、一定の職種や一定の勤続期間といった「一定の資格」を設けることも可能です。
掛金の設定については、iDeCo加入者の掛金と合計して、1か月あたり5,000円以上23,000円以下となるように加入者と事業主がそれぞれ1,000円単位で決定します。事業主掛金の額は、基本的に、拠出対象者全員が同額となるように決定します。ただし、「一定の職種」、「一定の勤続期間」や、このほか「労働協約又は就業規則その他これらに準ずるものにおける給与及び退職金等の労働条件が異なるなど合理的な理由がある場合において区分する資格」といった資格ごとに掛金額を決定することもできます。
なお、iDeCo加入者の掛金を0円とすることはできません。つまり、事業主のみが掛金を拠出することはできませんので、iDeCo加入者は、最低1,000円以上の掛金を1,000円単位で拠出する必要があります。一方、事業主掛金が加入者掛金を上回ることは可能です。
iDeCo+を実施する場合は、労使合意後に必要書類を国民年金基金連合会に提出します。労使合意をスムーズに進めるためにも、担当者は、以上のような制度内容を十分理解しておく必要があります。その際、下記のような企業のメリットや従業員のメリットについても事前に把握しておくことが必要になるでしょう。
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【企業のメリット】
① 企業型確定拠出年金に比べ、導入しやすい
② 事業主が拠出する掛金を全額損金算入できる
③ 運営管理コストを負担しない
④ 拠出対象者に一定の資格を設けることも可能
⑤ 福利厚生面を充実させることができ、人材確保・定着につながる
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【従業員のメリット】
① 事業主が拠出した掛金も合わせて従業員が管理・運用できるので、より豊かな老後を目指せる
② 従業員が拠出した掛金は小規模企業共済等掛金控除として全額所得から控除できるので、税金が軽減される
③ 運用益は非課税となり、掛金とあわせて再投資することが可能
④ 60歳以降に給付を受けるときは、年金で受け取れば公的年金等控除、一時金で受け取れば退職所得控除の対象となる
⑤ 転職・離職した場合には年金資産の移換ができ、ポータビリティが充実している
中小企業のなかには、福利厚生制度の充実を後回しにしてしまうところもあるでしょう。しかし、福利厚生面の充実は、従業員のモチベーション向上にもつながると考えられます。「この会社なら安心して働き続けることができる」という信頼感を持ってもらうことが大切です。
従業員が加入しているiDeCoの掛金に事業主が掛金を上乗せして拠出するiDeCo+は、企業も従業員の将来のことを考えているということを示す福利厚生制度であり、長期的な目線で従業員の老後の所得確保に向けてサポートする制度です。企業型確定拠出年金の導入は負担面で難しいが、従業員に安心して働いてもらうためにも、何か、公的年金のプラスαとなるような制度を会社として導入したいと考えている中小企業にとっては、検討すべき制度であるといえるでしょう。
※ 当コラムに掲載されている内容は、2020年12月現在のものであり、今後の制度改正等により内容に齟齬が生じることがあります。
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原 佳奈子先生
PROFILE
社会保険労務士 CFP®
社会保険労務士、1級FP技能士、1級DCプランナーとして、年金・社会保障を軸とした将来生活設計に関する講演・執筆などを行う。株式会社TIMコンサルティングでは、取締役として、幅広い業界で企業研修の企画・実施支援に携わり、一般社団法人 企業年金・個人年金教育者協会(DCTA)では副理事長として、公的年金の他、確定拠出年金をはじめとする企業年金・個人年金、さらには老後を視野に入れた資産形成に関する啓蒙及び教育活動に携わる。
社会保障審議会 年金部会委員、資金運用部会委員
著書:金融財政事情研究会「公的年金ガイドブック」、中央経済社「社労士さんに聞いた年金と老後とお金の話」(編著)
連載:金融財政事情研究会「KINZAI Financial Plan『年金・社会保険の委細詳論』」等