有識者によるiDeCoのコラム

iDeCoを活用した老後資産作りのポイント

iDeCoは歩みを止めないことが大切

iDeCoに加入しているみなさんはすでに自らの老後生活を豊かにするための準備をはじめていることになります。加入後大切なのは、その「歩みを止めない」ということです。「歩みを止める」というのは、具体的に言えば「積み立ての中断」やマーケット暴落時に「投資信託による資産運用」を止めてしまうといったことです。

iDeCoは掛金を積み立てている間、掛金全額が課税所得から控除され、税負担が軽減されるというメリットがあります。それを生かそうとするあまり、子供の大学入学資金や住宅取得資金に充てるべきお金のことも考えずに目一杯積み立てをしようという人がいます。しかし、大事なのは「iDeCoは、原則60歳まで引き出すことができない。」ことを踏まえ、無理をしないことです。もちろん、いつでも、積み立ての「休止」「再開」はできますが、「休止」すると「掛金の所得控除」メリットが受けられないまま口座管理料のみ負担することになります。積立額は年1回、千円単位で変更できますので、無理のない金額でコツコツ老後資金を積み上げるべきです。

もうひとつは「マーケット暴落時」の対応です。「マーケット暴落」といえば、「リーマンショック」を思い浮かべる方が多いと思います。あれは、確定拠出年金という制度が日本で始まって6年目の出来事でした。当時は連日メディアで、「100年に一度の大暴落」と報じられ、マーケットに対する不安が蔓延していました。この時期すでに確定拠出年金制度に加入し、投資信託を通じて分散投資をしていた方々の残高は大きく目減りし、ほとんどの方が元本割れしていました。

人間は「損」が嫌いでとても気になるものです。でもこの時点での損は確定しているものではなく、その時点での評価額と積立元本の差に過ぎませんので、マーケットが戻れば「損」もなくなります。ところがそれがいつになるのかはわかりません。そこで、加入者の中には目の前からこの「損」という事実を消してしまいたいという衝動に駆られ「投資信託はもう嫌だ」と大幅に目減りしたまますべて売却し、元本確保型商品に預け替えされた方々がいました。結果的にそういう方々は、その後のマーケットの回復、値上がりの恩恵を受けることなく、今も大幅な元本割れをしていると思われます。

一方、その時に特に何もせず、積み立てをずっと続けた多くの方は現在大幅なプラスになっています。実際にデータで検証してみると、代表的な資産である国内株式・国内債券・外国株式・外国債券の4つに均等に分散していた方は、過去10年で資産が積立額の1.6倍になっています。これは、暴落時に投げ売りしなかったことに加えて、マーケットが回復するまでの数年間、安く購入し続けたことが功を奏しているといえます。

マーケットに居続けられる資産配分にしよう

資産運用において、マーケットに居続けることはとても大切です。では、大暴落が来た時にマーケットから退場してしまわないために、どうすればいいのでしょうか。それは、防災と同じで最悪の事態を想定し、適切な資産配分をしておくということに尽きます。

具体的には、まずリーマンショック級の暴落があったら一時的にいくらぐらい目減りしそうなのか試算してみることです。そしてその損が自分が売らずにいられる範囲であるかどうかを考え、許容できる範囲内で株式や外国の資産のような価格変動の大きな資産を持つということです。この資産を簡単にできるシミュレーションやロボアドバイザーというサービスをほとんどの運営管理機関が、みなさんの加入者サイトで提供しています。試算ですから、何度でも試して、自分の許容にあったリスクをとる資産配分を見つけて、現在の配分の見直しを行ってください。

この「リスク許容度を測る基準」は、右図下図のように一般的に年齢やiDeCo以外の資産によって変わるといわれていますが、iDeCo自体の資産額や自身の性格によっても変わります。加えて、資産の前提となる数字が更新されることによって、試算結果が変わることもあります。いずれにせよ、できれば年1回定期的に、現在のままでよいか確認することをお勧めします。

  • ①受け取り(60歳以降)の時期が近づいてきた

    受け取り=売却なので、売却のタイミングにマーケットが急落すると手取りが減る
    それを避けるためにリスク資産の割合を減らす
  • ②iDeCo以外の資産が大きく減った時

  • ③iDeCoの残高が大きくなった時

    同じ価格変動でも残高が大きければ、損をするかもしれない額は大きくなる

無理をせず、老後資金をじっくり育てよう

誰でもできるだけたくさん、できるだけ早く、できるだけ安全に儲けたいと思うものです。しかし、マーケットはこちらの気持ちなどとは無関係で上げ下げし、私たちの欲望と不安を駆り立てます。暴落時には不安を通り越し恐怖さえ覚えるかもしれません。しかし、約30年、相場を見てきて思うのは、ずっと下げる相場もなければ、ずっと上がる相場もないということです。ですから、自分のリスク許容度に合った分散で、市場に居続ければ、そこそこの利益を得ることができ、長い時間をかけて自分の年金をしっかり育てていくことができると思います。

無理しない、放置しないマイペースの資産運用、これこそがiDeCoの運用です。このiDeCoを通じて得た資産運用のスキルは、資産全体の管理にも活用できますから、iDeCoの資産とともに今後の人生をきっと支えてくれると思います。みなさんにはサポートツールとして、加入者向けWebサイトやコールセンター、加入時にもらったテキストがあります。ぜひ、積極的に活用して自分のペース、自分の配分を見つけ老後資産作りの歩みを続けてください。

※ 当コラムに掲載されている内容は、2019年2月現在のものであり、今後の制度改正等により内容に齟齬が生じることがあります。
※ 当コラムは、執筆者の個人的な見解にもとづいて書かれたものであり、国民年金基金連合会としての見解を示すものではありません。
※ 当コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。
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確定拠出年金アナリスト 大江加代先生
講師
大江 加代先生

PROFILE

1級DCプランナー
大手証券会社にて22年間勤務、一貫して「サラリーマンの資産形成ビジネス」に携わる。確定拠出年金には制度スタート前から関わり、実際に約25万人の投資教育も主導、制度や運用だけではなく、実務に最も詳しい専門家の一人。NPO法人確定拠出年金教育協会理事として、月間15万人以上が利用する「iDeCoナビ」を立ち上げるなどiDeCoの普及活動も行っている。株式会社オフィス・リベルタス取締役、日本年金学会会員 。

主な著書: 「図解 知識ゼロからはじめるiDeCoの入門書」(ソシム社)

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