iDeCoでは銀行・証券会社・保険会社など取引する「運営管理機関(以下「金融機関」)」1社と「商品」を選ぶ必要があります。金融機関を決めてしまった後に、希望するような商品ラインナップが無いことも考えられます。そこでまずは商品選びのポイントを理解し、次にその商品がある金融機関を決める順序が良いと思います。
iDeCoは最強の運用方法だと言われます。「運用益が非課税」に加えて「掛金全額所得控除」という、積み立てしながら税金が安くなるからです。iDeCoに節税メリットがあるために「元本確保型」を選択し、投資信託(以下「投信」)運用に踏み出さない場合も多いと思います。しかし米国では家計金融資産を積極的に投信などリスク資産に投資し、21年間で2.45倍に資産を膨らましています(日本は1.20倍)。全く運用は行わないという場合以外であれば、運用益が非課税というメリットをフル活用するためには、iDeCoでも投信運用を活用することは非常に有効な手段の一つです。
iDeCoに限らず、資産運用を考える上で知ってトクすることがあります。
それはまず、「コストの安いインデックスファンドから選ぶ」ということです。この言葉は2017年4月当時の金融庁長官の発言で、個人が投資で成功する秘訣として、長官がある本から引用して挙げた事柄のひとつです。


投信運用のポイント
1)インデックスは身近でわかりやすい
毎日のニュースで「日経平均株価」という言葉を聞きます。日本を代表する株式225銘柄の、株価の平均が日経平均株価(以下「日経225」)という指数(インデックス)です。日経225に連動するインデックスに投資をするということは、1銘柄を買っただけで225銘柄に分散投資した効果となるのです。インデックスは日本だけでなく、先進国株式を束ねたものなどもあります。


2)コストは商品ごとに違う
投信には、保有しているだけで毎日かかる「信託報酬」というコストがあります。同じトピックス(=東証株価指数)に投資をした場合でも、投信のコストは0.17%、0.70%といったように安いもの、高いものがあります。結果としては、投資対象が同じインデックス運用であれば、コストの安いものに投資をすると、運用で得られるリターンが大きくなるのです。運用リターン=運用益-コストと覚えて下さい。


3)コストの安いインデックス・ファンドから選ぶ
アクティブ(積極的)運用とはインデックスを上回るリターンを目指すものです。それに対しインデックスに連動する運用はパッシブ(消極的)運用と呼ばれる場合もあります。iDeCoにはアクティブ・ファンド(=投資信託)もラインナップにありますが、初心者はまず、大きな資産配分にはコスト安のインデックス・ファンドを選ぶと良いでしょう。
4)名前でなく、実際のコストで選ぶ
投信に「確定拠出年金」「インデックス」「年金」と名前が付いているからコスト安とは言えません。実際のコストを調べてみて下さい。
5)バランス型ファンドで注意すべきコスト
株式や債券などの資産配分をファンド側で行うバランス型ファンドが便利に感じる場合もあるでしょう。しかしここでもリターンとコストには注意すべきです。
日本の個人向け国債(変動型10年)の適用利率は、現状約0.05%です(2019年1月時点)。国内債券が全てこの利回りでないとしても、歴史的低金利の日本では国内債券のリターンは低いでしょう。あるバランス型ファンドの信託報酬を1.6%とします。そして「低リスク」カテゴリーを選択した結果、国内債券に65%を投資する投信を選ぶと「65%部分が1%以上コスト負け」することが考えられます。この債券部分の運用資産が100万円ならば、その差は1%で1万円/年になります。バランス型だから安心でなく、コスト水準が重要なのです。
iDeCoの商品の選び方 元本保証でない場合も
iDeCoの手数料は完全に無料にはなりません。無料キャンペーン対象は下記7)の金融機関の手数料であって、iDeCo加入の別途事務手数料、2千円強はどこの金融機関でもかかります。
6)元本確保型商品
iDeCoでは元本確保型の商品を選ぶこともできます。元本確保型は、預貯金など、資産運用自体により元本を損うことのない商品です。しかしながら低金利の時期で、仮に利率が0.035%の元本確保型で2千円強/年の手数料よりも多い利息を受け取るには、約572万円以上の残高が必要です。そこまで積み立てるまでは毎年マイナス、元本保証ではないわけです。


ただし、経済的メリットは、所得控除などを併せて考える必要があります。大きな所得税控除を受けることができる方でリスク投資が苦手な方は、ぜひ元本確保型からiDeCoを始めてみましょう。また、現在は低金利が長く続いていますが、今後もずっと低金利になるとは限りません。今後長期金利が上昇し利率が上昇したならば、資産配分を多くするなどの見直しを検討すると良いでしょう。
7)初回時加入手数料・口座管理手数料
金融機関で独自に徴収している初回1回のみの加入時手数料や口座管理手数料を無料にするところが多くなりました。事務手数料定額約2千円/年はどこの金融機関でも共通です。金融機関が個別に設定している口座管理手数料は0円から540円程度と開きがあります。年間5千円以上の差が生じる場合もあります。
8)年金で受け取る場合のコスト、給付事務手数料
iDeCoを一括でまとめて受け取らず定期的に受け取る場合(年金)には、振込手数料がかかります。年間12回の受取では、5千円強/年の手数料がかかるのです。金融機関で給付事務手数料が別途かかる場合がありますので、頻繁な受け取りを計画している場合にはこの手数料にも注意してください。受け取りを毎月にせず、回数を減らす工夫も良いでしょう。
GPIFに学ぶ 資産運用の組み合わせは?
我々の年金積立金を運用する、年金積立金管理運用独立行政法人(以下「GPIF」)の資産配分はどうなっているでしょうか?概算で国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%に配分していました。2001年からの長期運用(2008年のリーマンショックの下落時期を含む2018年3月末まで)の収益率は全体では3.43%(年率)※でした。長期安定運用の参考として、GPIFの資産配分も参考になると思います。
投資に対する知識を身に付け、最強の運用法iDeCoを活用してほしいと思います。


※ 当コラムに掲載されている内容は、2019年1月現在のものであり、今後の制度改正等により内容に齟齬が生じることがあります。
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安東 隆司先生
PROFILE
RIA JAPAN おカネ学(株)代表取締役
CFP®、日経CNBCなどTV解説者、立教セカンドステージ大学講師、海外ETF専門家。
1989年から一貫して金融業界で顧客起点のアドバイザー。日米欧の銀行・証券・信託銀行で長年プライベートバンカーを務め資産運用、相続・事業承継に精通。
顧客の投資成功には高い販売手数料や頻繁な売買手数料は弊害と考え、米国で拡大する証券関連手数料を受取らず、契約残高×報酬率という報酬体系の投資助言業(RIA)を2015年から日本で経営。独立系で中立な立場の助言で顧客とWIN-WINの関係構築に努める。
様々な金融経済教育、特に低コスト運用の啓蒙活動をTV・新聞・雑誌など様々なメディアで展開。
著書:「元メガバンク・外資系プライベートバンカーが教える お金を増やすなら この1本から始めなさい」(ダイヤモンド社)、
「iDeCo+NISA・つみたてNISA プロの運用教えてあげる!」(秀和システム)など。
連載:ZUU Online「元プライベートバンカーが語る」など。